小野俊介 サル的日記

いや、その、サル的なヒトだから・・・

顔をこっちに固定したまま大声で話さない

経済学を少しでもかじった人なら、先生が 'Incentive matters.' という表現を使っているのを耳にした記憶があると思う。 もう少し分かりやすく、「ヒトは他人や制度の思惑どおりには行動しない」 と表現されることもある。 ほら、医薬品研究開発促進策と称する施策で、お上の意図どおりに物事が進んだことなど一度もないでしょ。 最近ではもう少しややこしいメカニズム (内生的な選好形成) をモデルに持ち込んで、それを説明する流派もある。

最近よく紹介される例では 「託児所で子供をピックアップする時間に遅刻する親が多いので、託児所側が頭にきて、遅刻に対する罰金を課したら、なんと、遅刻する親がますます増えましたとさ」 (ボウルズのテキストに出てます) がある。 こざかしい経済学的インセンティブを導入して効率を達成しようとすると、人間の大切な道徳・規範がぶっ壊されるという、とても気分の悪い例である。

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いつも大学の生協で昼飯を食べるサル的なヒト。 御多分に漏れず、東大生協の食堂も、先々週から、席が一つおきになるように、また、向かい合わせに座らないようにマークがついている。 誰かが食事をすませて席を立ったら、食堂の係の人がすかさず寄ってきてテーブルをシュッシュとアルコール消毒、という完璧な体制である。 すごいぞ、生協! ありがとう、生協! これなら安心だ。 というわけで、日々学食に通っているのである。

ところが、今週になってキャンパス内の人の数が増えるにつれ、困ったことが起き始めた。 そんなふうに意図的に人と人の距離を開けた状況で、むしろ前よりも大声で盛大に会話をする連中が現れ始めたのである。友達何人かで連れだって来た連中ね。 年寄りも若いのもいる。

私は決して偏屈な自粛警察官ではないし、リスクの高い県外ナンバーの車にマジで石を投げる一部の岩手県民のようなキチガイでもない。 メシを食いながら多少の会話をするくらい気にもならん。 問題なのは、生協でメシを食う東大の職員や学生が、この環境に生物学的に見事に適応して、より危険な生き物に変わり果ててしまったことである。

人と人の距離が伸びて声が届きにくいので、こいつら、首をしっかり真横に向けて、顔と顔を完全に正対させた状態で会話 をする。 席が離れた分、普段の2倍くらいの声量 を出しやがる。 それも やたらとはっきりした滑舌で(笑)。

その結果、そいつらの声と唾が、隣で大口開けてメシを食っているサル的なヒトの方向に、正確かつ大量に着弾する のだ。ゴルゴ13の狙撃並みの命中率かもしれん。 おい、そこのねーちゃん。 頼むから、顔をきっちり90度横に曲げて、オレに向けて固定したままベラベラと話をし続けるのは止めろ。 な。

殺意を覚えましたね。 ほんのちょっとだけど (笑)。 いや、そのおねーちゃんが仮に長澤まさみさんとか綾瀬はるかちゃんなら、俺は文句は言わん。 むしろ敗れて本望というべきである。 でもそいつはどこからどう見ても長澤まさみでもないし、綾瀬はるかでもない。 

・・・ ま、まぁそれはともかくとして、ほら、これって 「ヒトは他人の思惑どおりには行動しない」  の分かりやすい例である。 インセンティブ (環境の変化) のせいで、行動が変わっちゃったのね。 友達どうし向かい合って超近距離でペチャクチャやっていた以前よりも危険な生物になり果てておる。 鬼舞辻無惨の血が多めに入った鬼のようなもんだ。 分かりにくいたとえで恐縮だが。

それにしても 「給食は黙って食べましょう」 って小学校の先生によく言われたものだが、最高学府の学食でそれを掲示しないといけないって情けないよなぁ。 あ、最高学府って言葉、もはや死語か。

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一日ごとの感染者数が数百人レベルになったのに、今回はみんな開き直って無視してますね。 単なる慣れ以外の何物でもない。 もう笑うしかない。

大騒ぎを始めて4か月も経っているのに、ホントのところ何人くらい日本に感染者がいるのか、どこでどのくらい感染が起き続けているのかを、政府も専門家連中も誰一人胸をはって説明できない惨めな三流国ニポンに住んでいるのだから、もう諦めろ。 なるようにしかならん。 おまいらご自慢のニポンモデルでなんとかしろ。 な。

私自身4か月前に、疫学や予防医学専門家の言語能力がここまで低劣だとは予想してなかったことはここに白状しておく。 リスクコミュニケーションなどというシャレたレベルの話以前の問題として、あの人たち国語ができないのね。

数か月前のブログ記事で、PMDA の 「まともな」 審査官が、お上が発表する 『新規感染者数』 などという呼び名を申請資料に見つけたら、「お前らバカか? あれのどこが新規感染者数なんだよ?  あれは 『お役所の報告受付数』 だろ? 意味が全然違う日本語を使ってあんたたち恥ずかしくないの? 修正して!」 って資料を突き返すだろうなぁ、などと書いたが、恐ろしいことに今も状況はまったく変わってないのな。 お上もメディアも、今でも堂々とあれを 「新規感染者数」 と称し続けている。 歪んでいると知りつつ妙な日本語を使っているうちに、自分でもわけがわからなくなって、本当に気が狂ってやがんの。 気が狂ったことにすら気が付かない哀れさ。 それが今のニポンのコロナ論壇である。

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言葉の無茶苦茶さはコロナに始まったことではありませんね。 たとえば、もともと医薬品業界人が使っている言葉が、ほぼすべて無茶苦茶である。

先日業界紙 (注 1) を読んでいたら、こんな文章に出会って眩暈がしたのである。 

制度の導入による薬剤費の削減効果は大きいが、その前にどの薬が最も効くのか、他の薬とどう違うのか純粋に評価する必要がある。 医師・薬剤師最適な薬で早く治療を終わらせることが目標。 経済性の議論はいったん置いておき、まずはより良い薬物療法を追求したい。 

(注 1) 業界の東スポ、RI〇FAX ではない。 なお記事は一部改変してあります。 

 

なんかカッコいい言葉が並んでいるが、私にはまったく意味が分からないのよ。 それこそ一行一行書かれていることの意味がすべて分からない

なんだよ 「薬が最も効く」 って? 意味が分かるように定義してみて。 「薬がどう違う」 って、何を比べようとしてるのかも分からないのに違うもクソもないでしょ。 「純粋に評価」 っていうのなら 「不純な評価」 の例を挙げてみてよ。 「医師・薬剤師の目標が早く治療を終わらせること」 だなんて初めて聞いた。 「最適な薬」 ってなんだよ、それ。 意味を教えて。 「経済性の議論を置いて」 おいたら、すべての薬効評価の理屈が無意味になるが、それでいいのか? 「より良い」 薬物療法ってなんだよ、それ。 意味が分かるように説明して。

うちの研究室の学生がこんなアホな文章を書いてきたら、3カ月くらい研究室出入り禁止にするだろうな。 そのくらいひどい。 ・・・ のだけど、業界の皆さんはこれを読んでも平気なんだよね。 上の文章をフツーに読めて、フツーに意味が分かったりするんだよね。 製薬会社や病院で働いている人たちって、言語能力がすごいんだねぇ (棒)。

ちなみに、意味不明な文章によく出てくる言葉の筆頭が 「真の○○」 「本当の意味での○○」 であることは以前に指摘しました。 書いている本人が 「○○」 の意味を実は分かっていないとき、人間ってつい 「真の○○」 「本当の意味での○○」 って書いちゃうのね。 「真の有効性」 とか、笑い話並みのナンセンス言葉が厚労省の薬価算定がらみの通知に湧いていることは周知の事実ですね。 先の引用に出てた 「純粋に(な)」 はその亜型。 覚えておこう。 試験に出るよ。

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今日はここまで。 じゃまたね。

在宅勤務が恒久化しそうな皆さん。 パソコンに向き合って誰でもできる仕事をしてるだけではいけない。 外に出ような。 外に出て、土砂降りの雨にぬれたり、加齢臭のするおっさんとすれ違ったり、大きめの石を蹴飛ばしたり、カメムシに触って臭い汁を浴びたり、してください。 一日中家にこもっていると、心と知性が死ぬよ。